100年企業はここから生まれる。 Future Venture JAPAN

パイオニア100年後も選ばれつづけるために、時代と歩みを揃えていく。 京都の老舗・聖護院八ッ橋総本店、鈴鹿可奈子さんインタビュー(後編)

2017.01.18

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100年後も選ばれつづけるために、時代と歩みを揃えていく。 京都の老舗・聖護院八ッ橋総本店、鈴鹿可奈子さんインタビュー(後編)
京みやげの代名詞として知られる「聖護院八ッ橋」。327年続く老舗の未来を担う、株式会社聖護院八ッ橋総本店 専務取締役・鈴鹿可奈子さんインタビューの後編です。

幼い頃から、経営者であるお父様の背中を見て育ち、聖護院八ッ橋総本店に入社してからは後継者として一歩ずつ歩みを進めてきた鈴鹿さん。前編では、父と娘の物語の中から、次代を担う新たな経営者像が少しずつ浮かび上がってきました。今回はさらに踏み込み、主力商品のひとつ「聖」の包装紙の刷新や生八ッ橋の新ブランド「nikiniki(ニキニキ)」の立ち上げに取り組み見えてきたこと、入社10年目の今考えられている経営ビジョンについてお話を伺いました。

老舗に新風を吹き込んだのは、「伝えたい気持ち」

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聖護院八ッ橋総本店の主力商品は主に2種類。江戸時代中期の筝(そう。琴に似た日本の伝統的な弦楽器)の名手・八橋検校(やつはし・けんぎょう)を偲び、琴に似せて作られた干菓子「聖護院八ッ橋」。蒸した生地を伸ばして切り出した生八ッ橋でつぶ餡を包んだ「聖」。鈴鹿さんが入社して間もなく手がけた仕事の中に、聖の包装紙のリニューアルと、八ッ橋の新しいお召し上がり方・楽しみ方を提案する新ブランド「nikiniki」の立ち上げがありました。

 

――聖の包装紙に季節のモチーフを取り入れたのは、鈴鹿さんのアイデアだと伺っています。

 

はい。お土産物ですから「この季節に京都に行った」という思い出にしていただきたいと考えました。「中身は同じなのに、包装紙を変えるだけで大丈夫?」という心配もありましたが、お客様からは「中身が同じだからこそ安心して買える」と評価いただきました。

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――入社5年目となる2011年には、新ブランド・nikinikiを立ち上げられましたね。どのように始められたのでしょうか?

 

現在nikinikiの店舗としている四条木屋町の角が空き店舗として出てきた際に、父から「ここで何かしてみる?」と言われたのがきっかけでした。私も常々「新しいことに挑戦したい」と言っていたので、すぐにやることを決めました。

 

先に場所が決まっていたので、戦略的に練り上げてからのオープンではありませんでしたね。約半年間でお店のコンセプトを考えて、商品を開発。並行して店舗を改装し、オープンにこぎつけましたが、1年間は本当にドタバタでした。

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――nikinikiは、見た目の印象が主力商品とは随分異なります。どのような目的で商品を作られたのでしょうか。

 

最初の1年間は「ちょっと足を止めて見てほしい」という一念でした。普段は八ッ橋を買う機会の少ない地元の若い人たちにも「八ッ橋にはこんな美味しい食べ方があるし、こんなに可愛くなるんだよ」と、振り向いてもらいたかったんです。

 

一番うれしかったのは、ショーケースに並ぶ商品を見て「え?これ、八ッ橋?すごく可愛い!」とお客様に言っていただけたことでした。立ち上げた頃は、私が中心になってデザインを描き起こし、商品化していました。「毎月必ず、これまでにないものを出す」と決め、オープンから5年経った今も続けています。

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――桜や紅葉、ワールドカップが開催されたときにはサッカーボールなど、その時々の季節やイベントを取り入れられていますね。今でも鈴鹿さんがデザインされているのですか?

 

社員の方々からもアイデアを募るようにしたところ、開店から1年が経つ頃には「こんなデザインはどうでしょう?」という声が上がるようになりました。今では半分ほどが私のアイデアで、残りは製造部の方々が考えてくれているので、一緒になって作り上げている実感があります。

新ブランド立ち上げで再認識した、聖護院八ッ橋総本店の力

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前代未聞の見せ方で生八ッ橋のおいしさ、可愛さを表現して人気を博したnikiniki。鈴鹿さんは、その成功の背景に「聖護院八ッ橋総本店がもともと持っている力」があると、冷静に分析しています。新ブランドの立ち上げを通して見えてきたのは、聖護院八ッ橋総本店という「京都の街と歴史を共にしてきた老舗」の強みでした。

 

――ブランドを新しく立ち上げ、改めて「聖護院八ッ橋総本店の力」を認識されることもあったでしょうか。

 

聖護院八ッ橋総本店がもともと持っている力に、どれだけ守られていたかがわかりました。nikinikiを始めるときは、「歴史あるお店がこんなことを!」と厳しいご意見をいただくことも覚悟していました。でもフタを開けてみると、京都の人たちからは「伝統を持つ聖護院さんが変わったことを始めた」と興味を持っていただけました。

 

私のなかにも、もとの八ッ橋を“変えずに”使っているという自信がありました。八ッ橋を完成形の商品として見たらそこから動けませんが、 “素材”として見立てたことで「ここからどう飛躍できるか?」と大きく可能性を広げられたんです。

 

――お話を伺っていると、聖護院八ッ橋総本店は地域の方々と歴史を共にしてきた企業だと強く感じます。京都という街の老舗であることの強みは何だと思われますか?

 

歴史に支えられているからこそ、新しいことがしやすいという点です。歴史が長いと、伝統を守るために新しいことへの挑戦が難しくなると思われるかもしれませんが、実際はその逆です。京都の方々は目が肥えていらっしゃるので、厳しいとは思います。けれど、長い年月たゆまぬ努力を続けて一度信頼を得られれば、新しいことにも興味を持って応援してくださる。それは、昔からつづく京都の気質だと思います。

 

だからこそ、聖護院八ッ橋総本店が今までにない八ッ橋を提供するnikinikiを立ち上げた際も、「まずは一回、どんなものか見てみようか」というステージにすぐに上げていただけました。これこそ、京都の街や人々と歴史をともにしてきた企業の強みだと思います。

経営判断の基準は「100年後のためになるかどうか」

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現在は、社内での商品企画や人事などの仕事に加え、講演活動や、2020年東京五輪を見据えた取り組み「京都文化力プロジェクト」への参加など、社外にも活躍の場を広げている鈴鹿さん。多様な企業経営者たちと交流するなかで、自らの経営観を磨くことにも余念はないようです。最後に、入社10年目の今、鈴鹿さんが考えている将来の経営ビジョンについてお話しいただきました。

 

――ご自身が聖護院八ッ橋総本店を継ぐときのことはどう考えておられますか?

 

究極的には「100年後、200年後に、聖護院八ッ橋はあるか?」を考えることだと思います。100年後にも八ッ橋は存在していて、おいしいと言って食べてくれる人がいるかどうか。もちろん、来期の売上など短期的な視点でも考えますが、その前に「これは100年後のためになるのか?」という大前提を持っています。

 

ずっと時代とともにあるためには、時代と歩みを揃えておかないと、いつか見向きされなくなってしまいます。今はもう「京みやげといえば、八ッ橋」という時代ではありません。多種多様な京みやげから、選んでいただくために「何をして、何をするべきではないか」を考える必要があります。

 

例えば、包装紙。聖護院八ッ橋はあの赤い包装紙を見て「これこれ!」と買ってくださる方が大半なので、ほとんど変えていません。一方で、聖は季節ごとにどんどん変えていますが、10年後に「変わらないほうがいい」という人が多くなったら変えるのをやめるかもしれません。変わることにも、変わらないことにもこだわらない。臨機応変でいないと、時代の流れと歩みが揃わなくなってしまうと思うんです。

 

nikinikiを作ったことも、包装紙を変えたことも、いつまでも選んでいただけるよう、時代と歩みを揃えるための試行錯誤。これまで聖護院八ッ橋総本店を守り育ててくれた方々がたくさんされてきた、試行錯誤のうちのひとつだと思っています。

 

――逆に、「これだけは絶対に変えてはいけない」と思うことは何でしょうか?

 

八ッ橋の定義とおいしさです。八ッ橋の定義は、「米粉と砂糖を混ぜ合わせて肉桂(ニッキ)で香りづけをしたもの」。人々が感じるおいしさも、時代とともに変わっていきます。江戸時代から変わらない味を守るのではなく、口にされた方の「ああ、八ッ橋はおいしいな」という思いを同じにすることが大切だと考えています。

 

最近では、もっと広い視野で、八ッ橋を通じた社会貢献の可能性を考えています。素敵な経営者の方々がたくさんいらっしゃるので、みなさんの視点や姿勢から学びながら、自分なりの会社経営の方法を考えていきたいです。

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――最後に、京都に、世界に誇れる聖護院八ッ橋の良さを教えてください。

 

素材も、製造過程もごまかすことなく、とにかく真面目に作っているということ。変わらないおいしさを提供しようと日々努力しています。それは、社員一人ひとりが誇れる点でもあるはずです。


 

どんな質問に対しても、迷わずハキハキと明快に答えてくださった鈴鹿さん。社員一人ひとりを大切にする、100年先と今を重ね合わせながら経営判断をする、誰にも恥じない優良な商品を作り上げる、地域とのつながりに感謝する――など、聖護院八ッ橋総本店が紡いで来た歴史の礎となる哲学を、シンプルに語ってくださいました。

 

経営哲学をできる限りシンプルなものに突き詰めていくことが、安定した基盤を作ると同時に、臨機応変な動きも可能にするのかもしれません。鈴鹿さんが語った言葉から、企業の経営を持続可能なものへと導くヒントが見出せるのではないでしょうか。

 

 

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杉本 恭子 / Sugimoto Kyoko

フリーライター

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