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ノウハウ覚悟から考える起業、責任から考える資金調達(前編)

2017.02.15

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覚悟から考える起業、責任から考える資金調達(前編)

今回から二回にわたって、起業ということを「覚悟」というキーワードで、そして資金調達を「責任」というキーワードで考えたい。いずれも、「起業する前」のみなさんがより深く考えるきっかけとなれば幸いだ。

 

さて早速だが、最初に「起業」と「資金調達」の意味について考えてみよう。

 

「起業」と一言で言っても、株式会社を設立して事業規模の拡大を目差す場合、個人事業主から開始して段階を踏んで事業規模拡大を目差す場合、事業規模の拡大を前提としていないフリーランサーやクリエイターの場合など様々だろう。Web関連事業やコンサルタント業のようにパソコンひとつで起業できる業種もあれば、ものづくり、農業や店舗運営のように一定の資金が必要とされるものもある。しかし、いずれにしても「覚悟」が必要とされない「起業」はない。今回と次回では「起業」の中でも、自分以外の人からも何かしらの方法で資金調達を行う必要がある、言い換えれば人のお金を預かる覚悟が求められる「起業」を前提として話を進めたい。

 

次に「資金調達」だが、この言葉にも様々な意味がある。大きく分類すると、「デットファイナンス」と呼ばれるもの。金融機関からの借入が典型例だ。次に「エクイティファイナンス」と呼ばれるもの。ベンチャーキャピタルからの資金調達が例に挙げられる。そして、「アセットファイナンス」。これは「起業」の段階ではほとんど関係ないため割愛するが、会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを売却して資金を得る方法だ。最後が「事業で得られる儲けを蓄積する」方法だ。本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を意味するものと考えて欲しい。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と読み替えて欲しい。

 

では、ここからが本題だ。「覚悟から考える起業」に沿い、これからいくつかの質問をする。ひとつひとつ、自分に問いかけて欲しい。これらの質問は、我々が投資活動を行ったり、起業に関する相談を受けたりする際に、十分な覚悟をもった方と、そうではない方との間にある違いを元に考えたものだ。

大きな失敗をしても、また挑戦する覚悟はあるか?

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まずは、みなさんの過去の経験の中で、大きな失敗をしたことがあるか、それは何だったか、思い出してノートに書いてみて欲しい。次に、みなさんがやろうと考えているビジネスで想定される大きな失敗とは何だろうか? それも書いてみて欲しい。

 

この質問は、失敗=悪いこと、という意味合いでしたものではない。どんなに優秀な人でも、挑戦する人は必ず失敗する。失敗をしたことがない人は、挑戦してこなかっただけだ。失敗を想定していない人は、自分の能力を過信している傲慢な人にすぎない。一方で挑戦して失敗する人は、その試行錯誤の中で大きく成長していく。そして失敗経験を活かすことで、次の成功確率を高めていくことができる。事業はその連続ともいえる。また、成功から法則を見出すことは難しいが、失敗から法則を見出すことはできる、ということもいえる。

 

繰り返しになるが、挑戦する以上、失敗は避けられない。失敗から学ぶことなしに成長もできない。つまりは、失敗する覚悟、それを乗り越える覚悟が「起業」には必ず必要となるのだ。

本当の「人脈」を活用する覚悟はあるか?

そもそも人脈とは何だろうか? 交換した名刺の数や、有名人と知り合いであることを自慢するタイプの方もいるが、それは人脈といえるのだろうか? 広い意味ではそうかもしれない。しかし、「起業」における「人脈」とは、あなたを信じて仕事を出してくれる人、あなたを信じてお金を出してくれる人、このような人たちとの関係を指す。きっとみなさんの周りにはみなさんの起業を応援してくれる方々が大勢いるだろう。そういった方々も当然ながら大切しなければならない。一方で、応援だけでは事業は成り立たないのも事実だ。起業における本当の人脈を持っているかどうか考えて欲しい。そして、その人脈を活用する覚悟が自分にあるか問うことが大切だ。

人のお金を使う覚悟はあるか?

どんな方法で資金調達したとしても、人のお金を使って事業をする上では、様々な義務が生じる。そしてほとんどの場合、返済する金額は借りた金額よりも大きくなる。また、知人や友人からお金を出してもらうということは、万が一事業が失敗したときに、同時に人間関係も崩れる可能性がある。そういったことを理解した上で、人のお金を使う覚悟はあるだろうか?

様々な人との関係で苦労し、苦悩する覚悟はあるか?

日常生活であれば、不都合な相手とは距離をとったり、自分が引くことにより特に問題を表面化させずに済ませることができる。しかし、起業すれば自分が代表者であり最終責任者であるため、逃げることは許されない。どんなことも、どんな人に対しても何かしらの判断のもと、対処していく必要がある。

 

社内でも同様だ。起業家自身と創業メンバーの間には覚悟や意識の大きな差がある。場合によっては、創業メンバーのサラリーマン精神が表面化することも。そのときには、創業メンバーと言えどもみなさんのことを本当に理解していないことにショックを受けるだろう。それでも事業は一緒に行っていく必要がある。

 

友人と一緒に会社を経営する場合には、友人を解雇する必要に迫られるかもしれない。友人に会社の借入の連帯保証をしてもらう必要が生じるかもしれない。家族との関係で苦悩することもあるかもしれない。

 

起業家はある段階では、ワークライフバランスなどと言ってはいられない場面にも直面する。運悪く、配偶者との関係がうまくいっていないタイミングと重なれば、離婚をつきつけられる可能性もある。

 

最初は支援者だった人が、何かのきっかけで最大の敵対者になることだって少なくはない。そうなると大変だ。相手は「せっかく応援してやったのに裏切りやがって」と、普通では考えられないほどの嫌がらせをしてくるかもしれない。

 

良くない可能性の話ばかりをしてしまったが、どれもが起こりうることだ。そういったことに苦労し、苦悩することへの覚悟も必要だ。

事業計画を、事業経験者を含め多くの人に見てもらい、
厳しい意見をもらう覚悟はあるか?

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どんなにじっくり考えた事業計画でも、人の批判にさらされていない計画は十分ではない。特に類似の事業を経験している方の意見はとても貴重なものだ。その方の話を聞くことで失敗の疑似体験もできるだろう。

 

事業計画を人に見せることに強い抵抗感を持つ方も多いかと思う。しかし、安心して欲しい。人に見せたり話したりしたくらいで成り立たなくなる事業は、はじめから長持ちしない。真似されることを恐れるよりも、人の批判にさらされていない不完全な事業計画であることを恐れて欲しい。もちろん、見せる相手は選ばなくてならないが、多くの人に見せて厳しい意見をもらうことで事業計画はより良いものになる。一人ひとつの意見でも、100人に見せることで100個の改善点に気がつくことができるのだ。

 

ぜひ、自分の事業計画が批判される覚悟を持って欲しい。

自分を理解して、環境の変化に対応していく覚悟はあるか?

会社を経営していくうちに必ず環境の変化に遭遇する。そのときに生き残ることができるのは、ダーウィンが言うように「環境に適応した者」だけだ。「自分は○○な性格だから……」と自分の限界を自分で決めてしまう人は、環境の変化に適応できない。その場合、自分の弱いところを補ってくれるパートナーが必要となる。

 

しかし、どんなに素晴らしいパートナーがいる場合でも、自分自身の変化が必要な場面もある。その際に試されるのが、「自分の限界を超えるほどの努力をしたことがあるか」ではないだろうか。学生の方であれば、「人生でこんなに勉強したことはない」と言えるほどの勉強を今からでもして欲しい。

情報収集は必死に行ったか? その情報分析は適切か?

我々はベンチャー企業に対し、残念ながら投資は行わないという判断をすることも少なくはない。しかし、その中にも実は、直感的に素晴らしいと感じる事業も多くあるのだ。では、投資をしないという判断をしたのはなぜか。もちろん理由はひとつではないが、最も多い理由のひとつに「情報軽視、誤った情報分析」というものがある。「私の事業はとてもユニークであり、世界に同じことをやっている企業は存在しない。」という思い込みが典型的な例だ。事業計画の検討には、「競合分析」という項目を必ず盛り込むべきだが、その際、次の2点は絶対に忘れないで欲しい。

 

ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということだ。

 

競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえる。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはず。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずだ。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえる。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がないのだ。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言える。

撤退する勇気はあるか? 合理的に判断できる自信はあるか?

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起業前後というのは、ひたすら前向きなことを考え、良くない可能性には目を向けたくない時期だ。しかし、撤退の可能性を考えないのは、目を背けていれば撤退するような状況には陥らないと考える、非科学的な姿勢ともいえる。どういう場合に撤退すべきか、撤退する際にはどれほどの損害が発生するのかを考えておく必要がある。

 

まずは撤退を合理的に判断できる知識を身につけておこう。経済学やファイナンスの知識だ。「サンクコスト」という言葉がある。日本語では「埋没費用」と呼ぶ。実はこの言葉を知っているだけで、撤退の判断をより合理的に下せる可能性が高まる。みなさんの周りでも「今までかけた時間と資金が無駄になるから、中止なんてできない」という話を聞いたりすることはないだろうか? こういう場合に、サンクコストの考え方を応用すると、「過去に投資した資金や労力は一旦脇に置き、これから必要となる投資額とその効果を再度計算しなおして、投資継続か撤退かを判断しよう」と考えられる。ぜひ、経済学とファイナンスの基礎的な知識は身につけておいて欲しい。

越境することを楽しめるか?

越境とは、例えば自分が経験のない分野の仕事に就いてみたり、全く文化の違う外国に飛び込んだり、自分の従来の枠を飛び越えることを意味する。新しい価値観とぶつかり合うことは人が最も成長できる場面のひとつだ。「新しい価値を生み出すことができるのは、越境した人だけ」と言われることもある。会社を変革できるのは「若者、馬鹿者、よそ者だけ」という言葉とも通じるところがあるのではないだろうか。


 
本稿では「自分に問いかけて欲しい質問」を通じて、起業を「覚悟」という面から考えてみた。当然ながら、他にもたくさん覚悟する必要があることは多い。また、起業後の事業の段階ごとに覚悟すべき事項も変わってくる。起業の段階は主に始める覚悟であるし、仲間を増やす段階では、人の人生を背負う覚悟が求められる。事業を拡大させる時期には、波に乗る覚悟、組織をつくる覚悟、社員などに背中を見られる覚悟が求められる。会社が安定成長に入っても、安定が衰退の始まりだと考えると、経営を変えていく覚悟が必要となるだろう。起業前のみなさんから見ると、少し将来の話もあるが、まずは「あなたは覚悟ある起業家か?」という問いに少しでも自信を持って回答できるようになれると素晴らしいのではないだろうか。

 

 

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石井 優 / Ishii Masaru

フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 投資育成部長

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